シミュラクラーピグマリオン編

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迷子になって途方にくれたあの時、僕を1人にしなかったのは彼女だけで、それ以来彼女は僕の大切になった。 僕「どうしよう……」 小学生にだけある特別な組織、分団。仲が良い訳でもなく、悪いとも言えず、役割のために同行する不思議な集団だ。そうした集まり故だったのか、ある日の僕はその分団の集まりでの道中に1人、道を外れてしまった。 恐らく自宅と学校、それらの土地からさして離れた場所ではないだろう。それでも小学生、それも低学年だった僕にとって見知らぬ土地の与える恐怖は足が竦むに充分なもので、目に映る世界はあまりにも大きく恐ろしかった。 道を遮る様に並ぶ家屋は威圧的なまでの不可侵性を秘めた存在で、己の懇願に一切の見向きも示さないそれらが異様に暴力的な存在に思え、それらに拒まれ進むべき道が眼前と後方にしかない二者択一の中、進む地獄と戻る地獄との選択肢を保留にしながら僕は途方に暮れるしかなかった。 「どうしたの?」 そんな時、僕はその声を聞いた。 「きっとみんなが君を探しているから、そんな悲しい顔しないで。それまで私が一緒にいるわ」 そう言われた様に感じて、僕は彼女の手を取った事を今も鮮明に覚えている。 夕暮れ時になって僕は両親に発見された。彼女の言う通り、父も母も一生懸命に僕を探していたらしい。僕は、平屋の多い古町のゴミ集積場に座って眠っていたのだという。その手に大事そうに彼女を抱えながら。 月日が流れ、僕は高校に進学した。勉強は嫌いではないし運動も特別不得手はなかったが、ただ一つ、友達を作る事は苦手だった。それはあの時、分団で置いてきぼりにされた所為だろうか。恐らく違うだろう。そもそも僕と他人にはあの当時、家屋達がそう見えた様に、言葉に出来ない不可侵性があるのだ。 僕の部屋に来た人の大半は僕を怪訝な目で見る。ベットの隅に飾られた拭いきれない汚れたドレスと、生涯治る事はないだろうひび割れた顔の彼女を見て多くが押し黙り、時に揶揄う。 僕「なんと言われてもいいさ。彼女は僕の命の恩人なんだよ」 僕が真顔でそういった翌日から、ほとんどの生徒は僕と目を合わせない。 異性に関しては以ての外だ。奴らは彼女を乱暴に扱う。手を無造作に引っ張り、身長の何倍もの高さに持ち上げ、泥や枯葉を口に擦り付ける行為など残虐以外の何物でもない。
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