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蒼はあっけに取られていた。
もしかしたらナサを追いかけて、事情を聞くべきだったのかもしれない。
しかし、こんな朝早く、気のきいた行動ましてや言葉など出て来るはずもなく……
気を取り直して、もう一度教室のドアをくぐる。
いつもより色の薄い教室が蒼をまた奇妙な気持ちにさせた。
ふと奥を見ると、
「うわっ!!」
思わず大声が出てしまった。
もう誰もいないと思っていたのに、窓際の奥の椅子に誰が座っていたのだ。
漆黒の黒い髪、長い手足。
もう会うのは三回目になるだろうか。
この前演劇部で見た女の子。忘れる事の出来なかった女の子。
急に心臓が高鳴る。
その子は蒼の声に気がつき、ゆっくり立ち上がると振り返った。
(そうだよ。ナサは誰かに怒鳴ってたんだから、人がいて当然か…。)
深呼吸をする。
初めてその子を真正面からじっと見た気がした。
丹精な顔立ちをしていて、蒼はまたドキドキした。その子に会いたいと思っていたことは、もう認めざるを得なかったので。
その子が出ていこうするのを制した。
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