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「待って……放して!」
「嫌だ」
成海くんの指がわたしの髪にれる。
息が耳元にかかり、ぴくんと反応してしまう。
「此処なら人目無いですけど」
「だから……あれはっ言葉のあやというか……っ」
男の子に力では敵わないけれど、じたばたと精一杯の抵抗を試みる。
すると、急に成海くんの口調が強くなった。
「じゃあ、どうして俺とふたりで会ったりした? こうなるって思わなかった?」
「それは……」
「彼氏に不満があるんじゃないの。じゃなきゃ他の男と会ったりしない」
見透かされている──
語気だけでなく、抱き締める手にも力が込められて、成海くんじゃないみたいだ。
心臓がドクンドクンと大きな音を立て、飛び出しそうなくらい震えている。
「彼氏が踏み込めなかった莉南さんを、俺に教えて」
なんでそんなこと言うの……。
熱くなった顔も目頭も、自覚している。
成海くんが好きだって、心が叫んでる。
だけど……溢れそうな涙を堪えて、同時に紘希が頭に思い浮かぶ。
「…………まだ、駄目なの……」
声を震わせながら絞り出すと、沈黙が流れた。
そして、成海くんが小さく漏らした。
「……わかりました」
「ほんと……」
わたしは半分涙目で、成海くんを見上げる。
成海くんの瞳も、何だか潤んでいる気がして、吸い込まれそうな感覚がする。
「放しますから……キスさせて下さい」
目を見開いた次の瞬間、唇が重なった。
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