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「紘希……」
わたしはゆっくりとその姿をとらえた次の瞬間、目を見開きパニックになった。
え? 此処、会社の前だよね?
なんでこんなところにいるの??
「なんでいるの、って思ったろ今」
読まれている……大量の冷や汗を流しながら、言葉を探してていると、紘希が吹き出す。
「なんて顔してんの。挙動不審だし」
「か、会社の場所なんて知ってたっけ……?」
「駅と社名だけ聞いてたから、調べた」
……それっていわゆる、スト……
「ストーカーって思うなよ。これでも家に押し掛けるよりマシだろ?」
紘希なりの気遣い……?
よくわからないけど、紘希が笑顔を見せた。
「約束の1ヶ月だから、ちゃんと話そうと思って」
それって、別れ話するってこと?
頭でそう考えながらも、紘希の笑顔に、わたしの張り詰めていた心は崩壊した。
「……うぅ~……」
わたしが突然顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくり出したので、紘希がぎょっとして慌てた。
「何故泣く!?」
紘希がわたしと目線を合わせようと、屈んで顔を覗き込んだ。
「……俺と別れるのが惜しくなった……?」
「……」
そうじゃないけど……何か安心してしまった。どうして?
紘希がわたしの頭を包むように腕を回し、ぽんぽんと頭を撫でた。
その時、ビルから人が出て来る気配がした。
こんなところ誰かに見られたら──
慌てて体を引き離し、振り向き人影を確認する。
現れたその人は、成海くんだった。
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