最後の時間

7/9
前へ
/75ページ
次へ
まだ開いているカフェに入った。 わたしは拒否する元気もなく、ただ付いて行った。 「腹減ったろ。何か食う? おごるから」 「……いらない」 テーブルの上に視線を落とすわたしに、彼は困ったように微笑んで、店員さんにアイスコーヒーを2つ注文した。 「……悪い。嫌がらせするつもりはなかった」 頭上から紘希の声。 運ばれて来たコーヒーを口に含み、わたしは少しだけ落ち着いて、溜息を吐いた。 紘希の顔を見上げると、切なそうに微笑んでいる。 「……ごめん……わたし、自分のことばっかり……」 わたしの頭は、多少現実に戻って来たようだ。 紘希はわざわざ話をするために会いに来てくれたのに、なんて態度を取っているんだろう。 「いや、俺もいきなり来て悪かったよ」 しばし沈黙が流れた後、紘希が口を開く。 「言いたいことあったら全部言ってくれていいよ。覚悟出来てるから」 「覚悟……?」 わたしは紘希をじっと見つめ、零した。 「この1ヶ月、ずっと考えて、出した結論。どんな言葉も、どんな莉南も受け止めるって」 紘希は瞼を伏せたが、口元は穏やかに微笑んでいた。 こんな紘希は見たことがない気がして、胸を打たれた。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

410人が本棚に入れています
本棚に追加