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「だから、就活終わるまで会わないって決めたの。なのに差し入れとかくれるし」
「食べてくれた……?」
表情に不安を浮かべている、わたしの顔を見ていられないらしく、照れてそっぽを向いてしまう。
「鹿島さんの前で大喜びしちゃって、口止めするの大変だったよ。面白がられちゃって」
そうだったのか……ふたりのやり取りが目に浮かぶようで、にまにましてしまった。
そんなわたしの態度に、拗ねた成海くんがわたしの頬をつねりながら続ける。
「しかも会っちゃうし、彼氏といるし」
「彼氏とは、ちゃんと別れたよ!」
わたしは頬をつねられたまま、焦った面持ちを隠すことなく懸命に訴えたが、成海くんのやや疑がった眼差しが刺さる。
「でもあの時、抱き合ってなかった? 俺まじ、もう駄目だって思ったし」
「ちがっ、あれは成海くんが避けるから悲しくて泣けてきちゃって。そしたら、彼が何故かビルの前で待ってて……」
「……腹立つな」
少し切なそうな苦しそうな顔をしながら、成海くんの手が、わたしの胸元に触れた。
「あ」
いつも胸元を指差して来たその手が、優しく優しく触れるから……身体が震えてしまう。
まさかこんな日が来るなんて、あの頃は思ってもみなかった。
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