プロローグ

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 時刻は夕方の6時。窓から見た外は淡いオレンジ色が家や木々に覆い被さり、大小様々な影を演出していた。クライドはこのアパートから見える下町の景色が好きだった。冬には白く染まり、春には哀愁が漂い、夏は神輿が揺れて歩き、秋には木々の葉に目に暖かい色彩が色つく。湿度の高い夏には暫く慣れなかったが、この国特有の四季…いや、四季を感情豊かに重んじるこの国の人々が好きだった。  時計を見たジェシカはおもむろに立ち上がり、キッチンへと向かった。クライドは日本食が好きだった。特に世話好きなアパートの管理人がジェシカに教えてくれたミソスープが好きだった。  クライドがテレビをつけると、芸人が世界中を回って珍しい生物をハントするというバラエティー番組がやっていた。母国でもそういった番組があったが、ドキュメンタリー風で日本の番組のように笑いを取り入れてはいなかった。この国のエンターテイメントは面白い。  場所はアフリカの湿地地帯で芸人が沼に足を取られ、顔から転げる。フッと鼻で笑った所でアパートのベルが鳴った。時計を見ると午後7時30分。クライドに客人の心当たりはなく、ジェシカの方を見るが、ジェシカも首を傾げていた。  クライドは名残惜しそうにテレビから視線を外し、玄関へと向かう。  どうせ宗教の勧誘か何かだろう。宗教の概念が乏しいように思えるこの国も所々で仏教が潜在的に根付いているのが分かる。恐らく、彼ら日本人は無関心、故に気付いていないのだろう。 そんなことを思いながらも玄関のドアノブを回し、ドアの向こう側を覗きこむ。  クライドの目に映ったのは黒いパーカーでフードを被った華奢でうつむき加減な男。その出で立ちにクライドがぎょっとした刹那、男がスローな動きで顔を上げる。クライドと目があった時、悪魔のような表情の笑みを浮かべたのだった。 ──────一週間後─────── 『都内で某所某地区!米国からの移民一家が何者かに襲撃されました!1人は重体で病院で治療中!1人は行方不明、そうしてもう1人、女性の遺体が発見されました!犯人はなおも逃走中!犯人が日本人だと判明した場合、移民政策後、初めて確認される日本人による移民の殺害となります!これからの国内の治安と民族間対立への懸念の声が至るところで挙がっている模様です!』 ─────────────────
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