第1章 菓絵と優太

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「おじいちゃん、おばあちゃん、おはようございます。今日も笑顔でがんばりますので、お客さんをいっぱい連れてきてくださいね」  変わらぬ姿で私を見守り続けてくれている祖父母の写真に手を合わせてから、私の新しい一日が始まる。  絵を描くことが好きになったきっかけは何ですか? と聞かれることがある。私はいつも曖昧な答え方をする。どうして絵を描くことが好きになったのか、自分でもわからないからだ。  私の母の話によると、私は二歳の頃から絵を描き始めたらしい。遠い昔のことなので、どんな絵を描いていたのかは覚えていない。父と母が上手いと言って褒めてくれたことは覚えている。  小学生時代は家の近所のお絵描き教室に通い、中学校と高校は美術部に入り、高校二年生の夏、デザイン関係の仕事に就きたいと思った。  絵が上手なんだから、画家になればいいじゃん。と友達によく言われたけど、私は堅実な道を選んだ。好きなことをして食べていければ最高だと思う。でも、現実はそう甘くはない。  私が進学した美術大学は、神奈川県の北西部にあるため、高校卒業後の春、埼玉県の実家を離れて、横浜市内にある母方の祖父母の家に移り住んだ。もうかれこれ、九年前のことになる。
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