第1章 菓絵と優太

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「菓絵さん、こんにちは。どうもお待たせしました」  約束の時間に迎えに来てくれた優太さんのスタイルは、先週の土曜日と全く同じ。 「優太さん、こんにちは。天気が良くて本当に良かったですね。駄菓子をいっぱい持ってきましたので、あとで一緒に食べましょう」 「はい。遠慮なくご馳走になります。それでは出発しましょうか」 「はい! エスコートをよろしくお願いします!」  これは果たしてデートなのか。ただのハイキングなのか。  どちらにせよ、優太さんと一緒に出かけられたことが嬉しくて、自然と心が弾んでくる。  優太さんも私も小麦色の麦わら帽子を被っているので、はたから見れば、恋人同士に見えるかもしれない。 「優太さん! ちょっと待ってください! 私を置いて行かないでくださいよ!」  駄菓子屋の店番と畑いじりと絵を描いているだけの日々を送っている私は、明らかに運動不足。  日頃からよく歩いている優太さんに、私の駄菓子屋から五百メートル程歩いた所で、十メートル以上も引き離されてしまった。 「どうもすみません」  私に後ろから声を掛けられた優太さんは、すぐにその場で立ち止まり、申し訳なさそうな表情を浮かべている。  私はそんな優太さんを見ていて、逆に申し訳なく思ってしまい、大急ぎで優太さんの元に駆け寄った。 「私が歩くのが遅いだけです。もっと速く歩くようにします」 「いえいえ、僕のペースが速かったんです。菓絵さんのペースに合わせて歩きますね」  歩くのが遅い私のペースに合わせてくれた優太さんと駅まで歩いていき、電車を二本乗り継いで、優太さんが通っている丘の最寄りの駅で降りた。
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