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「私は、この駅で降りたのは初めてです」
駄菓子屋を切り盛りするようになってから、電車に乗る機会がめっきりと減ってしまった私。初めてに決まっている。
「菓絵さんは初めてなんですね。僕はもうかれこれ、百五十回目くらいになります」
「優太さんはそんなに降りているんですか」
百五十回という数字を聞いて、私は驚いた。
優太さんが通い続けている丘は、いったいどんな感じの丘なのだろう。早く自分の目で確かめてみたい。
「この駅から目的地の丘まで、四十分くらい歩きますので、水分補給をしてから出発しましょうか。コーヒー牛乳の入った水筒を出しますので、ちょっと待っててくださいね」
「私もコーヒー牛乳を持ってきましたので、あそこのベンチに座って飲みましょう」
私に気を遣ってくれている優太さんと木陰にあるベンチに座り、麦わら帽子を脱いで、リュックサックを肩から降ろし、乾いた喉を冷たいコーヒー牛乳で潤した。
暑い中で飲むコーヒー牛乳は最高に美味しい。
「それではそろそろ出発しましょうか」
「はい。頑張って歩きます」
優太さんも私も麦わら帽子を被り直し、首にタオルを巻いて、リュックサックを背中に背負い、目的地の丘を目指して出発した。
初めての街。初めての風景。目に映るもの全てが新鮮に感じられる。
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