第1章 菓絵と優太

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 したたる汗をタオルで拭いながら、優太さんと肩を並べて歩いていき、排気ガスが立ち込める大通りを抜けて、入り組んだ坂道を上がっていくと、一気に目の前が開けた。 「わあ、空が高くて広い」  その見晴らしの良さに、私は思わず声を上げた。  どこまでも広がっている青い空。  大きくて真っ白でふわふわの雲。  群れをなして空を自由に飛び回っている鳥たち。  秋の訪れを告げる赤とんぼ。  緑の森に囲まれた遠くの山々。  さっきまで歩いていた大通り。  緩やかな斜面の上にぽつんと立っている一本の樹。  熱を持った私の体を優しく冷やしてくれる心地よい風と新鮮な空気の香り。  空を遮る建物も電信柱も電線もない。  車の排気ガスの臭いは一切しない。  とにかく空気が美味しい。  身も心も嬉しい。  駅から四十分くらいしか歩いていないのに、まるでどこかの有名な山にでも登ったかのような素敵な景色が広がっている。
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