9人が本棚に入れています
本棚に追加
「とっても見晴らしの良い丘ですね。住宅街の中に、こんなに素敵な丘があったなんて、今まで知りませんでした」
「この丘は、僕のちょっとした秘密の場所でして、空がよく見えそうな場所を探し回っていたときに見つけたんです。北海道にあるような有名な丘ではないので、いつも人は少ないんですが、僕はこの丘が好きなんです」
優太さんが嬉しそうな顔で話してくれた。
「私もこの丘が気に入りました。あそこに立っている樹には何か名前があるんですか?」
丘の上にぽつんと立っている一本の樹。私は気になって仕方がない。
「だいぶ前に、あの樹に名前があるのかどうか、地元の人に尋ねたことがあるんですが、どうやら名前はないようです。僕はあの樹も好きでして、空の下の笑顔の樹と勝手に名前を付けて呼んでいます」
「空の下の笑顔の樹ですか。空が大好きで、いつも笑顔でいる優太さんらしい名前だと思います」
「どうもありがとうです」
にっこりと微笑んだ優太さんは、緩やかな丘の斜面を下っていき、「こんにちは。今日も笑顔だね」と言って、空の下の笑顔の樹に向かって挨拶をしていた。
「ふふふふふ」
優太さんの様子を見ていて、私は微笑ましく思った。
樹に向かって挨拶をした人を見たのは初めてだから。
「空の下の笑顔の樹に自己紹介をしてくれませんか」
「あ、はい。すぐに行きます」
私も丘を下っていき、麦わら帽子を脱いで、「こんにちは。初めまして。私は佐藤菓絵と申します。どうぞよろしくお願いします」と言って、空の下の笑顔の樹に向かって自己紹介をしてみた。
最初のコメントを投稿しよう!