第1章 菓絵と優太

27/112
前へ
/317ページ
次へ
 お腹も心も満たされ、夏の終わりを告げる爽やかな秋風を全身で感じながら、のんびりと青空を見上げているうちに、遠くの空がオレンジ色に染まり始めてきた。 「だいぶ日が沈んできましたね。あの美しい夕焼け空と空の下の笑顔の樹を背景にして、菓絵さんの写真を撮ってもいいですか?」 「いいですよ」 「どうもありがとうです。すぐに撮影の準備をしますので、そのまま座っててください」  優太さんは勢いよく立ち上がり、緑の芝生の上に三脚を設置して、私の写真を撮る準備を始めてくれた。 「私も麦わら帽子を被ったほうがいいですか?」 「はい。被ってみてください」 「それでは被りますね」  私も麦わら帽子を被って立ち上がり、空の下の笑顔の樹の真横に立ってみた。  こんなに大きな樹の横で写真を撮ってもらうのは初めてなので、どんなポーズにしようか迷ってしまう。  私は悩みながら考えて、空に向かって伸びている空の下の笑顔の樹のように、両手を空に向かって高く上げて、エイドリアーン! と心の中で叫んでみた。 「それでは撮りますね」 「はい!」  私は両腕を上げたまま返事をして、優太さんのカメラに向かって微笑んだ。  自分の顔は見えないけど、ものすごい笑顔になっていると思う。    パシャ! パシャ! パシャ! パシャ! パシャ!    爽やかな秋風に運ばれてきた優太さんのカメラのシャッター音。とっても心地よく聞こえた。  今日の写真の背景は、私の駄菓子屋ではなく、空の下の笑顔の樹とオレンジ色の夕焼け空。どんな風に写ったのか楽しみ。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加