第1章 菓絵と優太

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「私の写真を撮ってくれて、どうもありがとうございました」 「どう致しまして。夕焼け空の写真を撮りますので、ちょっと待っててくださいね」 「はい。私は絵を描いてますね」  空の下の笑顔の樹の下に座り、家から持ってきたスケッチブックを開いて、カメラのシャッターを押しまくっている優太さんの後ろ姿の絵を描いてみた。  絵の背景はもちろん、空の下の笑顔の樹とオレンジ色の夕焼け空。  まあまあの出来かな。鉛筆描きの絵だけど、真っ白いスケッチブックが夕陽の光に照らされて、色鉛筆で描いたかのような絵になった。  外で絵を描くと、こういうことがあるから楽しい。 「優太さんは、いつもこの丘に一人で来て、夕焼け空の写真を撮っているんですね」 「はい。背景はいつも同じなんですが、空の表情は毎回違うので、いろんな夕焼け空の写真を撮ることが出来るんです」  空の表情は毎回違う。空が大好きで、夕焼け空の写真を撮りまくっている優太さんの言葉には説得力があると私は思う。 「今日の夕焼け空の感じはどうですか?」 「まだ九月の上旬なので、夕焼けの色はちょっと薄いんですが、あの雲とあの雲が良い感じなので、今日も良い写真が撮れたと思います」 「良かったですね」 「はい。良かったです」  優太さんは満面の笑みを浮かべている。納得のいく写真が撮れたのだと思う。
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