第1章 菓絵と優太

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「話は変わりますが、僕は子供の頃から紙飛行機を折ることが大好きでして、この秘密の丘に来る度に、あの美しい夕焼け空に向かって紙飛行機を飛ばしているんです。今日は、菓絵さんの紙飛行機も持ってきましたので、よかったら、僕と一緒に飛ばしてみませんか?」 「いいですよ。一緒に飛ばしましょう」 「すぐに紙飛行機を出しますので、ちょっと待っててくださいね」  青色のリュックサックから、白色の紙飛行機を取り出した優太さんが、二機のうちの一機を私に手渡してくれた。 「本格的な紙飛行機ですね」  優太さんの紙飛行機は、全体的にバランスが良さそうで、いかにも飛びそうな形をしている。 「改良に改良を重ねた結果、この形にたどり着きました。それでは飛ばしてみましょう」 「はい。どうやって飛ばせばいいですか?」 「菓絵さんの利き手で紙飛行機を持って、野球のボールを投げるような感じで、あの美しい夕焼け空に向かって、おもいっきり飛ばせばいいと思います」 「わかりました」  紙飛行機を折ることも上手な優太さんに教えてもらったとおり、私の利き手の右手で紙飛行機を持って、野球のボールを投げるような感じで、腕を大きく後ろに振りかぶってみた。  背中から優しい風を感じる。風向きは追い風。 「あの美しい夕焼け空に向かって、どこまでも飛んでゆけー」  優太さんの掛け声とともに、真っ白い紙飛行機をおもいっきり飛ばしてみた。  紙飛行機歴の長い優太さんが飛ばした紙飛行機も、紙飛行機初心者の私が飛ばした紙飛行機も、夕陽の光に照らされて、キラキラと輝きながら飛んでいき、緩やかな斜面の上にふわりと着地した。  飛距離にして、三十メートルくらいは飛んだだろうか。いや、もっと遠くまで飛んだかもしれない。紙飛行機は、こんなによく飛ぶものだったのか。と驚いてしまうほどの飛距離だった。
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