第1章 菓絵と優太

33/112
前へ
/317ページ
次へ
「今日は、ハイキングに行ってきたんです」  恥ずかしがっている私の気持ちを察してくれたのか、優太さんはデートとは言わないでいてくれた。 「ハイキングですか。いいですねえ。ご注文はお決まりですか?」  ラーメン屋さんのおじさんも、私の気持ちを察してくれたのか、私と優太さんの関係に首を突っ込まないでいてくれた。 「僕は、チャーシューメンとチャーハンと餃子にします」  優太さんもお腹がペコペコのようだ。 「私は、味噌ラーメンと餃子とレバニラ炒めにします」  一度にこんなに注文したのは私は初めて。 「二人とも、お腹がペコペコのようですね。すぐに作りますので、少々お待ちを」  優太さんと私の注文を聞いたラーメン屋さんのおじさんは、にっこりと微笑んでから、いつもの調子で料理を作り始めてくれた。 「菓絵さん、生ビールで乾杯しませんか?」  優太さんはコーヒー牛乳しか飲まないと思っていたので、私はちょっと驚いた。 「あ、はい。乾杯しましょう」  厨房で鍋を振るっているラーメン屋さんのおじさんに生ビールを注文して、ふわふわの真っ白い泡が山盛りになっている生ビールのジョッキをカチンと合わせて、優太さんと乾杯してみた。 「いただきます」  よく冷えた生ビールが、ペコペコのお腹に染み渡ってくる。とにかく美味しい。最高に美味しい。こんなに美味しく感じられるのは、よく歩いたからだと思う。  駄菓子屋を切り盛りするようになってからの私は、家飲みが多くなってしまい、飲み会にも行かなくなってしまったので、こうしてラーメン屋さんで生ビールを飲むのも、男性と一緒に食事をするのも、かなり久しぶりのこと。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加