『宇賀神』

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 自分の子供が剥製にされただけでもショックであるのに、蛇と合わさっているとなると、計り知れないショックであった。 「親父を待とう」  祭りのせいなのか、死霊のメンバーも神輿に集まってきていた。遠巻きに見ているので手招きすると、幾人もの子供が寄ってきた。季子が菓子を持ってきたので配ってみると、皆が菓子を一口食べて固まっていた。  俺が渡した菓子を見てみると、昔からの和菓子で落雁であった。口の中の水分が無くなってしまい、驚いてしまったのであろう。  笑いながら季子が麦茶を出すと、子供達が慌てて飲んでいた。 「ごめんね。母屋からおせんべいを持ってくるね」  希子は、母屋に走って行った。  ここに死霊のチームが来たということは、ここが狙われているということだ。 「……名護」  名前を呼んでみると、名護が人混みからやってきた。  希子は、母屋に行くといいながら、近所の店で焼き立てのせんべいを買い込んでいた。まだ餅のようなせんべいを、子供達に配る。女性の感であるのか、季子はこの子供達が俺にとって重要なのだと気付いていた。  そうか、もう神輿を見張る目がついていた。警察に紛れて、鋭い視線がやってくる。  名護が周囲を見ると、子供達は散り散りに去っていた。子供達は隠れた場所から、細い高音を出す。その音で、敵の人数や位置も分かる。  俺と藤原は、久芳漢方薬局の店内へと入った。名護だけが、神輿の近くで子供の声を拾っている。 「弘武君、ベンチに座って待っていなさい」  希子は、神輿を優しく見守っていた。  布が貼られたベンチに、藤原と並んで座ると、余った落雁を手に取った。これは、どうにも食べられない。  俺が落雁を藤原に渡すと、藤原は立ち上がり、宇賀神の横に落雁を置いてきた。藤原は、ただ嫌いで食べないのではなく、お供えしましたと嘘をつく。つくづく上手い奴だなあと思いつつも、それを計算していないのが藤原であった。 「藤原、急に立ち上がるから、ベンチがバランスを崩したよ」  俺は椅子から落ちそうになって、同じく立ち上がっていた。表のガラス超しに、神輿が見えている。  目を閉じると子供の声で、敵の位置が分かる。ピーという高音のみであるが、回数や音程で上手く伝えていた。  北、屋根の上に一人、狙撃手。狙撃手は危険であるので、早めに処理したい。 「印貢、ミイラって防腐剤もいるのか」
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