『宇賀神』

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第一章 三年寝太郎  公立高校一年、俺、印貢 弘武(おしずみ ひろむ)の隣の席には、学校に潜入し、学校内でどのような事件が発生しているのか調べている刑事が座っている。   刑事の名前は、相澤 真名斗(あいざわ まなと)。潜入捜査であるのに、相澤は本名を使用していた。 「相澤さん。授業が終わったので起きてください」  授業が終ったから起こすというのも変だが、相澤はとっくに高校など卒業している。相澤は、俺よりも十歳年上なのだ。しかし、全く年の差は感じない。相澤のやや紅い頬が、田舎の少年の雰囲気を醸し出している。  相澤が刑事だと知っているのは、この学校の生徒では俺しかいない。先生陣も、相澤が刑事だとは知らされていない。 「印貢、バスケ部辞めたのか?」  俺がサッカーボールを持っていたので、相澤が見つめていた。俺は、訳あってバスケ部を辞めて、サッカー部に移籍した。  俺の兄の、久芳 征響(くば まさき)が、近くにある私立高校の、名門サッカー部の主将であるので、バスケ部を追い出されてしまったのだ。 「まあね。ほらサッカーには隣の家の湯沢もいるし、野中 潤哉(のなか じゅんや)もいるからさ、俺にも都合はいいしね」  俺のもう一人の兄の、久芳 佳親(くば よしちか)も、俺が一人で通学するよりも、湯沢との通学を望んでいた。  高校生からサッカーを初めたのでは、レギュラーは望めないだろう。それでも、バスケ部は異常に弱かったので、まだ強いサッカーの方がいいかとも思ってしまった。  俺は体を動かしているのが好きで、スポーツに拘りがない。  それにレギュラーでなければ、やや時間に余裕ができる。 「相澤さん、四区で恐れられている事件があるのですが、帰りに家に寄ってもいいですか?」  佳親の言いつけなど守らない。レギュラーを狙える湯沢には練習して貰い、俺は相澤の家に行くつもりだった。 「いいけど。遅くなる前に帰れよ」  相澤の家は、俺の家とは反対方向になる。 「はい!」  一年の、しかも時期を外した入部の俺は、準備と片付けの合間に、基礎体力をつける走り込みだけしかない。てきぱきと仕事を終らせると、ひたすら走り込む。 「印貢、兄貴の久芳先輩にはサッカーは教えて貰っていないのか?」
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