『宇賀神』

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 誰もが、兄の征響を気にしている。全国を狙っている私立のサッカー部のキャプテンであるので気になるのであろう。  でも、俺が印貢、兄が久芳と名乗っているように、家の事情もあるので、皆聞き難いらしい。  俺は、久芳家を離婚して出た母親から生まれた子供であった。母の死により、歳の離れた兄の家に住んでいる。俺の父は、誰かは分からない。 「兄は俺にサッカーを教えません。倉吉先輩が時折アドバイスはくれます」  どよめきがあった。倉吉も、私立のサッカー部のレギュラーであった。  倉吉は、優しい顔のいい先輩ではあるが、時々豹変する。サッカーの時も、荒武者とニックネームが付くくらい激しいらしい。 「……どうして倉吉先輩なの?」 「天神区は皆で集まって、俺の家で練習しているので、倉吉先輩も一緒ですけれど」  グランドを走りながら会話しているので、俺だけ消耗が激しい。 「そうか……」  ひたすら走ると、練習が終了になった。俺は急いで片付けをすると、頭を下げて帰途につく。 「印貢さん、家に帰らないのですか?」  湯沢は同じ年であるが、俺をサン付けで呼ぶ。 「ちょっと寄るところがあるからさ」  湯沢も、佳親に俺を連れ帰れと頼まれているのだろう。困った顔をしていたが、見逃してくれた。  公立高校は、天神三区にあった。道路を渡ると天神一区になり、私立高校がある。その私立は、幼稚園から大学までの一貫校であった。私立は、かなり広い敷地面積に、充実した設備も持っていた。  私立の横に、国立の大学もある。薬学部が入っていて、隣に別の大学の経済学部もあった。天神一区は、ほぼ学生の町であった。  天神一区を抜けると、駅となっている。駅の向こうには、天神二区があり、オフィスやショッピング街がある。  相澤の家は、天神二区のマンションの高層階であった。 「相澤さん。入ります」  合い鍵で相澤の部屋に入ると、相澤は仕事をしていた。 「ほいよ。そこいら辺に適当に座っていて。一区切りついたら、話しを聞くから」  部屋には、各種の機械が置いてあった。相澤の部屋は、何かの秘密基地のようであったが、これは、趣味なのだそうだ。基本、警察のとのやりとりは、パソコンだけあれば事足りるらしい。
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