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組頭の中学生の息子が乗りたいと騒ぎ、練習もしたことがないのに神輿に乗り、転がり落ちて意識を失った。裏に救急車が呼ばれ運ばれたが、脳震盪の他に足と腕の骨も折っていた。
寺側は縁起も悪いので、勝負を明日に持ち越した。
「そうか。でも、明日も出ないだろうな……」
参道の商店街は、神輿の喧嘩を気にしているが、天狗を怒らせた組頭の横暴さも非難はしていた。商店街の婿や嫁も、他の土地から来ているので、同じように差別を受けていたのだ。
「親父も、佳親さんが出ないならば、家で接待をすると言っている。神輿は人を乗せないでぶつかって、引き分けで終わればいい」
それでもいいのかもしれない。
「しかし、印貢。その亀の甲羅のようなものは、何?」
俺は、座布団ジャンボのどら焼きを背負っていた。
「季子さんが、整理券を取ってくれた」
「……座布団なのか?」
藤原はどら焼きと分かると、大笑いしていた。
「印貢、俺も神輿に出ないからさ。明日は、一緒に祭りを見てまわろう」
そういえば、藤原と一緒に祭りを見た事はない。
「そうだな。藤原も販売員をやってからな」
まず、追加される久芳茶を売ってしまおう。他にも、漬物もこの店のシフォンもある。おまけに、全て完売したら、皆で旅行に連れてゆくと商店街が言っている。どうも、キャンプのようだが、それでも、このメンバーで行くというのも面白い。
「全て完売で、旅行という約束を取った」
「おし!」
秋里の喫茶店で、キャンプに行こうと盛り上がり家に帰った。部屋には夕食が準備され、そこに相澤が寝転んでいた。
「相澤さん、特等席で食べますよ」
ベランダから屋根に上り、屋根の上に用意されていた弁当を広げる。
「花火ですよ」
港の花火祭りも重なり、山側と海側で花火があがるのだ。
「印貢。佳親さんが謝っていたよ。楽しい祭りにしたかったってね」
それは佳親が悪いのではなく、俺が悪いのだ。
花火の音と、火の粉が燃える音。遠くの花火は、夜空のようであった。
「……はい、でも、俺は今までの祭りの中で一番楽しかった。仲間と兄弟に囲まれて、バカやってふざけて」
ここに来て初めて、寂しくない祭りを体験した。
「そうか、良かった」
相澤は仕事もあるので、今日は泊まるが朝には帰るという。
花火をおかずに、弁当を食べると部屋に戻った。
早朝、まだ寝ていたいのに近くで声が聞こえる。
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