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「何かうるさいね……」
窓からは何も変わりはなく、ベランダから屋に登ると声の方向を見た。久芳漢方薬局の前に、人だかりができていた。
普段は買いにくい久芳茶が簡単に買える事と、昨日の売り切れの噂が広まり、朝から並んでいるらしい。
それも、若い男性が多かった。彼女と並んでいる者も多い。
「何だ?これは……」
並んでいる人を観察してしまうと、確かに身綺麗にしている。お洒落で、体形を気にしているのだろう。
夜通し機械が動いていたので、並んでいる分の久芳茶はあるかもしれない。でも、これは胃もたれしない茶であった。
「相澤さん、朝飯の前に仕事だね」
相澤と袋詰めをしてしまった。征響も起きてきていて、秋里と倉吉も巻き添えをくって手伝っている。
「昨日、材料を仕入れたのに、また仕入に行くしかないか」
佳親は、ワゴン車に乗ると、道の空いている朝の内に、仕入に行くからと出発してしまった。
道に並んでいるのは目立つので、季子は少し戸を開けて、営業を開始した。一人一個ではなく購入するので、想像以上に減りが早い。
並んでいる人がいなくなった所で、又、戸を閉めた。
「噂も凄いね。これ飲んでも、胃に効くだけだろう」
「でも、思い込みは人を変えるからね」
機械が動いているが、佳親がいないので、結局、相澤が久芳茶を造り続けていた。
「ごめんなさい相澤さん。お祭り、見ていないでしょう?」
希子が、普通の茶を相澤にいれていた。
「昨日、見て回りましたから大丈夫です」
相澤は、季子には和やかだが、俺には資材を持って来いなどとあれこれ命令する。
でも相澤がいれくれて良かった。昨日も神輿の組頭が来て、嫌味を言い続け季子が困っていたが、相澤がかわしてくれていた。
「怪我は主催者側にも責任がありますから、ちゃんと警察にも報告してくださいね。今年の失態で、以後、久芳を出させないなどしていると、誰も参加しなくなりますよ」
怒る組頭に、相澤はため息をついていた。組頭は、この狭い区域で、大きな顔をしてきたのかもしれないが、余りに世間が狭い。
「誰が参加させてやるものか」
捨て台詞を言って、組頭が帰って行った。
「祭りよりも、個人のプライドが大切なのだね」
祭りならば、参加者も多いので大丈夫だと思っているのだろう。参加さないということは、寄付金も集まらないということだ。今回は大丈夫でも、今後は響いてくる。
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