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「大事になってしまいましたね」
やっと朝食になった。久芳の親戚は、何かと文句を言うので、季子も接待に追われている。
「さてと、今日も売りますか」
相澤は佳親が留守なので、嫌がらせが心配だと家に帰れないでいた。
第十章 宇賀神二
神輿が不評で担ぐ人が減ってしまい、一基、余ったからと店の前に置かれてしまった。余ったからと言っても、担ぐつもりは全く無かった。
店頭で、しかも参道が細く、かなり邪魔であった。これは嫌がらせなのであろうか。
でも、神輿を近くで見た事が無かったので、空き時間にあれこれ観察してしまった。
神輿は基本、神社のような造りになっていた。
「中は何ですか?」
神輿の中を覗こうとして、佳親に怒られた。
「神の輿なのだから、中身は神でしょう」
佳親は、今日も神輿には参加しないらしく、久芳漢方薬局で茶を造っていた。その合間に外に出ては、佳親は通りを眺める。
祭りは気になるのならば行って見てくればいいのだが、佳親も頑固であった。出ないと決めたら、行かない。
「でも、その神の輿の上で飛んだり跳ねたり、喧嘩しているでしょう」
佳親は、神輿をそっと撫ぜていた。
「あれは、神に捧げているの」
古い神輿は、佳親に縁のあるものなのであろう。
「喧嘩を捧げるのですか」
征響の指揮で、天神の天狗チームは販売員になっていた。完売の報酬であるキャンプを目指し、計画的に動いている。
俺は興味に負けて、神輿にあった扉を開いてしまった。
「うわ!」
俺の声に、佳親が反応し、季子が悲鳴を上げていた。
「きゃあああ、蛇!」
神輿の中には、白い蛇が入っていた。生きているのかと俺が身構えると、蛇はミイラであった。
とぐろを巻いた白い蛇は、鱗に光沢があった。その細かい鱗は作り物ではないと分かる。そのとぐろの頂上、蛇の頭の部分に人の顔が乗っていた。
相澤がのんびりと歩いてくると、まじまじと蛇を見ていた。
「蛇も本物だけど……」
相澤の言いたい事も分かった。征響と佳親もやってきて、じっと小さな頭を見た。
髪の毛がきっちりと生え、産毛までもある。目には青いガラスが嵌められているが、まつ毛もあった。口をしっかりと閉じているが、歯もありそうであった。
「歯もありますかね?」
「いや、これ頭蓋骨は抜かれているから、中は針金ではないかな」
相澤は頭に触れてみて、感触を確認していた。
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