『宇賀神』

63/77
前へ
/77ページ
次へ
「大事になってしまいましたね」  やっと朝食になった。久芳の親戚は、何かと文句を言うので、季子も接待に追われている。 「さてと、今日も売りますか」  相澤は佳親が留守なので、嫌がらせが心配だと家に帰れないでいた。 第十章 宇賀神二  神輿が不評で担ぐ人が減ってしまい、一基、余ったからと店の前に置かれてしまった。余ったからと言っても、担ぐつもりは全く無かった。  店頭で、しかも参道が細く、かなり邪魔であった。これは嫌がらせなのであろうか。  でも、神輿を近くで見た事が無かったので、空き時間にあれこれ観察してしまった。  神輿は基本、神社のような造りになっていた。 「中は何ですか?」  神輿の中を覗こうとして、佳親に怒られた。 「神の輿なのだから、中身は神でしょう」  佳親は、今日も神輿には参加しないらしく、久芳漢方薬局で茶を造っていた。その合間に外に出ては、佳親は通りを眺める。  祭りは気になるのならば行って見てくればいいのだが、佳親も頑固であった。出ないと決めたら、行かない。 「でも、その神の輿の上で飛んだり跳ねたり、喧嘩しているでしょう」  佳親は、神輿をそっと撫ぜていた。 「あれは、神に捧げているの」  古い神輿は、佳親に縁のあるものなのであろう。 「喧嘩を捧げるのですか」  征響の指揮で、天神の天狗チームは販売員になっていた。完売の報酬であるキャンプを目指し、計画的に動いている。  俺は興味に負けて、神輿にあった扉を開いてしまった。 「うわ!」  俺の声に、佳親が反応し、季子が悲鳴を上げていた。 「きゃあああ、蛇!」  神輿の中には、白い蛇が入っていた。生きているのかと俺が身構えると、蛇はミイラであった。  とぐろを巻いた白い蛇は、鱗に光沢があった。その細かい鱗は作り物ではないと分かる。そのとぐろの頂上、蛇の頭の部分に人の顔が乗っていた。  相澤がのんびりと歩いてくると、まじまじと蛇を見ていた。 「蛇も本物だけど……」  相澤の言いたい事も分かった。征響と佳親もやってきて、じっと小さな頭を見た。  髪の毛がきっちりと生え、産毛までもある。目には青いガラスが嵌められているが、まつ毛もあった。口をしっかりと閉じているが、歯もありそうであった。 「歯もありますかね?」 「いや、これ頭蓋骨は抜かれているから、中は針金ではないかな」  相澤は頭に触れてみて、感触を確認していた。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加