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「……阿部の作品は、こんなに身近にあったのですね」
微笑むような頬には紅が差し、体温まで感じそうであった。小さな子供の顔で、笑顔のままずっと神輿の中にいたのか。
この子供も、無事に成長していれば、もしかしたら俺と級友になっていたのかもしれない。
「どうしましょうか……ご神体ですけど、死体遺棄でしょうか?」
相澤も処理に困ったのか、写真を撮るとどこかに送信していた。
「専門家に見て貰ってから決めるよ」
勘違いでは騒げない。俺は、そっと扉を閉めた。
又、店の販売員に戻ったのだが、どうにも神輿が気になる。中はミイラだというのに、佳親は神輿の乗り方を俺に教えてくる。
「まだ売り切れませんか?」
久芳茶は、どれだけあったのだ。
「ええとね、売り切れちゃった。で、他のメンバーは弘武君を置いて移動したみたいね」
いつの間に、俺は置いていかれていたのだ。確かに、湯沢の姿も無かった。
でも俺を置いていった意味は分かる。他の神輿の中も知りたい。子供で制作された宇賀神(蛇のご神体)は三体あったという。他の神輿にも入っているのではないのか。
「印貢、ダメ。販売員をしていてね。俺の仕事だからね」
相澤に先を読まれて、秋里の所に連れて行かれてしまった。
「秋里君、これを頼みます。目を離すと、何をするのか分からないですから」
腕を掴まれて連行されているので、秋里が笑っていた。俺は相澤の腕を振りほどこうとして、逆に投げ飛ばされる。受け身は取れるが、それでも、投げ飛ばす事はないだろう。
「……分かりました……」
秋里が、笑いを堪えて返事をしていた。
相澤が戻ってゆくと、俺は征響の姿を捜した。征響は、店頭で指揮を取って売っている。征響は、人を動かすのが上手であった。
「秋里先輩。神輿の神は、ミイラでしたよ。止めてあった金具の具合からすると、最近入れ替わったものではありません」
金具と錆びの具合、ワイヤーの固定を見ると、慣れている感じはする。
「何の意味があるのでしょうか?」
美術作品にも近い出来だが、剥製であるので少し怖い。
「阿部は死んでしまったし、意味は分からないかもね」
表の漬物が売り切れたので、次は菓子屋に行く。祭りは見ていないが、売れ行きは好調であった。この調子でいけば、二時には売り切り、皆で昼を食べに行ける。
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