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菓子も売り切り、線香、蝋燭も売り切ったあたりで、寺の方向から人の声が聞こえてきた。
まだ売る物が残っているので、騒ぎを見に行けない。
しかし、走ってゆく相澤を見つけ、どうにも気になった。
「征響!」
やはり、興味に負ける。
「行っていいよ。残りはやっておく」
秋里が諦めたように声をかけてくれた。
寺の正面の広場のあたりに行ってみると、人だかりができていた。人を掻き分けて中に割り入ってみると、なにもない空間があった。皆、この空間を見て騒いでいる。
「神輿が消えた」
ここに置いてあった神輿が、消えてしまったという。
休憩時間となり神輿はここに置かれた。特に見張りなどはなかったという。周囲には観光客がカメラを持って記念撮影していた。
そんな中で、休憩時間が終わると神輿は消えていた。
簡単に持って帰れるものではないし、隠せるほど小さくもない。
参道には人が溢れているので、車も通らない。ヘリコプターなども飛んでいなかった。
人込みから離れて、相澤が周囲を見ていた。
「相澤さん」
相澤は航空写真と、周囲の様子を見比べている。
「盗まれた神輿は古いもので、百年前のものだそうだ。でも中には、阿部の宇賀神があったと推測される」
神輿は祭りが終わると、メンテナンスに出していた。そのメンテナンス先に、阿部が働いていた記録があった。阿部は、容易に宇賀神をセットできたのだ。
しかし、どうしてそんな事をしたのかが、分からない。
征響もやって来ると、航空写真を眺める。
「相澤さん、隠したのはトラックの荷台でしょう。皆、祭り用に資材を運んで来ています。それに、ここから運んだのは人です」
征響は、カメラを持っている人に声をかけ、画像を確認していた。白装束の集団が、当たり前のように神輿を担ぎ、この場から去って行った。
白装束は寺の担ぎ手が着ている衣装で、神輿を移動するのかと、誰も疑問を持たなかった。
しかも、白装束は数人で神輿を持ち、歩くのも速かった。これは、相当鍛えた人物であった。
「ラグビー部?」
どうも後ろ姿に見覚えがあると、征響はどこかに電話を掛ける。すると、この白装束の本人が出た。
「バイトで、神輿の片付けを引き受けた学生達がいました」
征響の学校の先輩で、進学してラグビー部に在籍している人がいた。同じく近くの国立大学のラグビー部が、バイトで来ているという。
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