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ニコルは嬉しそうに笑っていた。この笑顔は昔と一緒であった。下手な笑みであるが、どこか心が和む。
「イトしい人、うん、守っているよ」
ニコルに思われる人も幸せだろう、ニコルは裏切る気持ちを持たない。かなり、一途な性格であった。
「闇オークション?」
「ソウ、納品は絶対」
すると、久芳漢方薬局に前にある神輿も、いずれは盗まれてしまうのだろう。俺に、闇の世界の理は分からない。でも、その前にあの子供のミイラにも親に会わせてやりたい。
親にとってはショックな状態であるが、想像して悔やむよりも、見て恨む方がいい。
「ニコル。四区は居心地がいいか?」
「まあまあね。殺したら海に沈める、教えてくれたよ」
ニコルも何を学んでいるのだろうか。
「俺に関わるのは、無理だよね?」
「そうだね。俺は闇の人間で、ヒロムを太陽に帰した。もう、遠くで見ているだけにしないとね。ヒロムが危険になる」
ニコルは闇の人間などではない。俺はニコルにハグして、肩に顔を埋める。なつかしいニコルの匂いは、今も草原のようであった。
「ヒロムは、俺の家族」
ニコルの腕の力が強い。抱きしめられて、どこかがボキボキと音をたてた。ニコルに痛いを訴えて、肩を叩くと余計に締められてしまった。
これで分かったが、ニコルも相当鍛えている。
「ニコル、苦しい……」
やっと解放されると、酸欠になった息を整える。
「神輿のミイラに、親と会わせてやる。そのくらいの時間は稼げるかな?」
ニコルはパンパンと自分の手を叩く。
「よし、だよ」
ニコルがどこかに消えていた。
俺は、相澤に電話を掛けると、最初に焼死体になった子供の名前と住所を教えて貰った。今度は藤原を頼り、ミイラの親の情報を貰った。
「……弘武、待っていろ。四区は危険だからな、俺も同行する」
俺を弘武と呼ぶということは、藤原の周囲には誰もいない。
「あの神輿は盗まれる。だから時間がない。闇オークションには対抗できない。僅かな時間しかない」
藤原は、父の将嗣にも事情を説明し、協力を仰いだ。
通常の四区ならば、子供に会いたいという理由は通らないが、将嗣も親であったので気持ちが分かると動いてくれた。
ミイラの親を呼ぼうと、俺が家まで戻ると、そこには既に藤原が到着していた。神輿の中を確認しながら、何か唸っている。
「普通の人が見たら、気絶だな」
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