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ミイラの周辺に、衣類の虫避けのような匂いがしていた。虫は大敵なのかもしれない。
将嗣が、最初の被害者三人の親を連れてきた。四区の人間であるので、犯罪自体には慣れている。
しかし、神輿の中を見ると、二人が倒れていた。残りの一人の女性が、子供の頬に触れ、大量の涙を流していた。
そんな中で、狙撃手が動いた。ミイラに触れるは厳禁なのかもしれない。
「行くか……」
外に出ると、狙撃手の方角に歩き出す。すると、死霊チームが慌てて、狙撃手を屋根から突き落としていた。
名護も走って俺に寄ってくると、手を振ってダメだを強調する。
「印貢さん。危険過ぎます。相手は狙撃ですよ。堂々と歩いていないでください」
堂々と歩いていたのではなくて、狙撃は人混みを狙うのが難しいのだ。変に隠れて孤立しているよりも、狭い参道の人混みを歩いた方が安全であるのだ。
でも、名護の心配も確かであった。俺は、藤原の安全もあるので、もう少し慎重になった方がいい。
神輿に戻ると、三人の親は愛しそうに、宇賀神となってしまった子供を見ていた。ほんのりと笑う子供は、今にも喋りそうであった。
「当たり前に、今日も帰ってくると思っていました……」
ただいまと玄関を入ってくる幻聴が、今も聞こえるという。
「これは闇オークションですね。我々も怖さを知っています。又、別れになりますが、知る事ができて良かった」
親達が泣いていた。何年経過しても、子供は子供で、親なのだそうだ。
こんな姿を見ると、いつまでも少年の姿でいたいと願う久芳茶はクズのようにも思えてしまう。人はいつかは大人になる。親は、子供を見守っている。
でも、久芳茶は大人になりたくないではなく、男性化したくないであっただろうか。
いつまでも宇賀神を見ている親達に、季子はそっと麦茶を渡す。
こんな時に飲んだものは、一生心に残りそうだ。
闇オークションの連中は、今も神輿を狙っている。警察に引き渡してから盗難となって欲しいと思っていると、相澤が顔をしかめていた。
第十一章 宇賀神三
神輿は、警察が運び、その道中に見事に持ち逃げされた。これで、あの子供とは別れとなってしまった。永遠の笑顔、阿部の望んだものは残酷だった。
祭りも終盤になり、各店の期間限定品は売り切った。佳親と将嗣、天神の天狗のメンバーは今日もそば屋で寛いでいた。
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