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そばが運ばれてくる度の争奪戦にも慣れ、天婦羅に飽きていると、そばバーガーなど試作品も持ってきた。これが、ものすごく不味いとクレームを入れると、そばクレープを造ってくれた。これは、かなり美味しい。
「将嗣。一回くらい勝負したいよな?」
「そうだな。これ、楽しみにしているしな。うちのバカ息子と弘武も戦わせてみたいし」
俺は神輿に乗るつもりはない。
「神輿、残っていたな」
神輿は全部盗まれたのではない。確か、後二基は残っていた。
「それに、季子が泣いていてさ。爺さんの衣装を弘武の為に準備していたのに、着せられなかった」
佳親は、俺が季子を出されると弱いと知っている。
「……では夜に襲撃?して神輿に乗るか。全員、着替えて再集合」
ニヤリと将嗣が笑っていた。襲撃とは、何をするつもりであろうか。
俺は佳親に捕まり、家に帰ると、母屋に閉じ込められた。
「弘武君。これが衣装なの!古かったから、かなり手直ししたけどね」
これは何であろうか。白地に銀色の刺繍、その上に金の刺繍で唐草模様が入っていた。それはまあいいとして、背中に翼の模様が入っている。
「天使?」
「そうでしょう?近いのよね。地味なのかなって思ったけど、この糸、釣り糸のような素材でね、反射して光るのよ。しかも、蓄光みたいなの。どうやって造ったのかしらね」
暗闇で服が光っていたらしい。この服は暗闇で、仄かに銀色に浮いてくる。
着替えようとすると季子がじっと見ている。恥ずかしいので外に出そうとすると、この衣装、着るのが難しいと言われた。
「しっかり着付けしないとね、動くと脱げてしまうのよ。佳親さんは慣れているから大丈夫だし。途中で裸になっても、それは面白いから構わないけど、弘武君はダメ」
着替えをしっかり手伝ってくれた季子は、終わるとカメラを持ってきて、写真を撮りまくっていた。
「可愛い!!!!」
かっこいいの方がいい。玄関に行くと、地下足袋が用意されていた。それも白に統一されている。
「おう弘武、似合っているな……想像以上」
地下足袋を履くと、佳親が立ち上がった俺の腰を持ち抱き上げた。
「何ですか?」
「ここの天狗のお披露目はな、地面を歩かないで、最初に神輿に乗せるの」
それは、前に見た事があるが、この地区の子供は初めての祭りの時に、親に抱きかかえられて集まり、神輿に乗せてから始まる。
「俺、高校生ですよ」
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