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「知っている。どうにか持てる。軽くて良かった」
希子が追いかけてくると、天狗の象徴なのと、手の平のような形の大きな葉を持たせた。
更に、季子は追いかけて続け、写真と動画を同時に撮っていた。季子も器用であった。
これが佳親の策であったようで、皆が見送っていた。初めての祭りという祝いの席を、クレームで汚したくないという気持ちが伝わってくる。
しかし何故か、観客が集まってくる。
「よし、弘武。足を降ろしていい」
置いてあった、神輿の屋根にそのまま上ると、季子が泣きながらカメラのシャッターを押していた。
「ようこそ弘武、俺達の息子」
誰でも言う、決まったセリフであったらしいが、俺も泣きそうになってしまった。
俺が、神輿の上から佳親と季子に抱き着くと、周囲が貰い泣きしていた。
「では出陣!」
いきなり神輿を担がれてしまった。かなり揺れたが、落ちるということはない。耐えられる揺れであった。
「跳ねる!」
もしかして事前に打ち合わせがあったのであろうか、神輿の担ぎ手が一気に集まり、大騒ぎになってしまった。皆、楽しそうに、俺を振り落とそうとしてくる。
「弘武、落ちるな!」
しかし慣れてくると、この担ぎ手は俺の揺れをみて調整してくれていた。振り落とそうとはしていない。むしろ、思いやりさえ感じる。
「弘武、逆立ちしてみな」
佳親は、やや離れた場所から指示を出していた。俺が、神輿の天辺に片手を付き、倒立すると喝采が出た。
「天辺に立ってみろ」
リクエストされると、つい試してしまう。しかし揺れがあるので、天辺は辛い。
「大きく揺らしたら、宙返りして着地」
佳親も、かなり無理を言ってくる。でも、つい宙返りをやってしまい、流石に落ちそうにはなった。
「よし。行くぞ!」
藤原も神輿に乗っていた。神輿同士が走り、ぶつかろうとする。神輿がぶつかるというのは、かなり怪我人も出そうであった。皆上手くかわしながらぶつけているが、上の衝撃は激しい。
藤原は慣れているので、顔色一つ変えていない。それが悔しくて、俺も平然を装ってみた。
でも、これでは互いに落ちない。征響が飛び乗って蹴り落したという気持ちが分かる。
「大波で行け!」
神輿が高く掲げられて、激突した。その拍子に、神輿は真横まで傾いた。しかし、俺は適当に歩いて移動し、又、担ぎ手がしっかり押さえてくれていた。
「あ、藤原。大丈夫?」
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