『宇賀神』

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 藤原は、地面に胡坐をかいて坐っていた。 「やっぱり、印貢。天狗だよな。飛んでいるみたいに、身が軽い」  勝利のせいか、派手に持ち上げて降ろすを繰り返す。これ、まるで軽業師のようであった。調子に乗って、再度、逆立ちで〆てみた。 「よし!おいで、弘武」  この佳親の構いっぷりにも困る。 「俺にもハグして!」  藤原かと思ったら、将嗣であった。この親子もよく似ている。  俺は神輿から降りると、藤原の姿を捜した。 「藤原。せんべい奢って」  息子の藤原、由幸が立ち上がって歩いてきた。 「しょうがないなあ」  ここのみりんせんべいは、とても美味しいのだ。来たついでに、自分で買おうと思ったら、財布を持っていなかった。 「特大でお願い」 「後でチューしてね。その服装のままがいいね。羽が天狗みたいで、結構、かっこいいよ」  天狗は羽があったのか。夜になってくると、この服がぼんやりと光る。藤原は、目印になっていいと言うが、変に目立つ。  寺の砂利の上を歩くと、地下足袋が初めてなので感触が痛い。でも、石畳みを歩いても、何かを踏むと、かなり痛い。これ、本当に靴なのかと靴底を見ていると、藤原が特大のみりんせんべいを買ってくれた。  このみりんせんべいは、ここで焼いているので、まだ熱かった。 「藤原、地下足袋って石を踏むと痛いよね」 「そう、だから足の感触でおかしかったら、そのまま踏み出さない」  そうか、痛いのならば、踏まなければいいのか。  端の壁に登ってみりんせんべいを食べていると、佳親も神輿に乗っていた。  佳親と将嗣は、何と言うのか、派手であった。煽って、近寄ってぶつかって離れる。これは、まるで二人の関係のままであった。  神輿がぶつかる度に、歓声があがる。寺の境内すべてが、歓声に染まって揺れるようであった。 「凄いね」  佳親は、これを見せたかったのであろうか。俺は、いつも、祭りを避けていた。  夜になると、こちらに向けられているカメラが、フラッシュをたくのですぐに分かる。こうやって話しているだけなのに、どうしてカメラを向けるのであろうか。 「弘武。他に何か食べたいか?」  みりんせんべい以外は、そんなに食べたくはない。 「藤原、夕食は一緒に食べようよ」  藤原は頷きながら、あんず飴を見ていた。 「甘いものがいいのならば、この近くに、手作りアイスがある」
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