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時計を見ようとしたが、腕になかった。遠くの柱時計を見ると、まだアイス屋の営業時間であった。
佳親と将嗣は、今回も引き分けで終わったようだ。
俺達は子供の部になっていたので、祭りの勝敗には関係がなく、無事引き分けで終了となった。
アイスを食べるにしても、俺の財布がない。取りに帰っていたら、店が閉まってしまう。
俺は、征響の姿を見つけると、走り寄って手を出した。
「征響、俺、財布を忘れた。アイスを食べてくるので、少し貸してください」
征響は俺を凝視してから、後ろの藤原を睨んだ。
「印貢。いい、大丈夫。俺は財布があるから」
睨まれた藤原は、必死に俺を征響から離そうとしていた。
すると、季子が俺に金を渡してくれた。
「アイス食べてらっしゃい」
「俺は金を渡したくないのではなくて、アイス屋が裏通りになるので、その恰好で行って誘拐されないか?と藤原を睨んだだけです」
それは、言葉にしなくては通じなかったであろう。高校生で、誘拐の心配をされるとは思わなかった。
「確かに、心配ですよね。コレ、ですからね」
神輿が盗まれたので、警察も多い。こんな場所で、誘拐されるものなのか。
「まあ、俺達も行こうか」
秋里が、話しに割って入り宥めてくれた。
そこで、皆でアイス屋に向かってしまった。ここのアイス屋の名前は、愛洲アイス屋(あいすあいすや)であった。皆、面倒なのでアイス屋と略している。冗談で店の名前を付けたのかと思っていたら、愛洲は本名なのだそうだ。
愛洲は、アイスと揶揄われていたので、アイスに親しみを持ってしまったという。
閉店間近のアイス屋に入ると、裏通りなのか、祭りには関係なく閑散としていた。
店内の奥に、様々な味のアイスが並ぶ。アイスというよりもジェラートではあった。
「印貢、どれがいいの?」
ここのアイスは、基本的には余り甘くない。ミルクもフレッシュミルクは甘くない。濃いミルクがやや甘めになる。
「藤原には、濃いミルク、クラッシュクッキー混ぜ、チョコアイス添え」
店長は、アイスを練って作ってくれた。
「印貢は何がいいの?ちゃんと奢るよ」
「ピスタチオ、くるみ、アーモンドスライス」
店長が奥から持ってきてくれた。
「ピスタチオのアイスがあるのか……」
これは、かなり美味しい。ややしょっぱい感が、甘味を際立たせる。
「しかし、印貢。ここのメニューにやたら詳しいね」
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