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真面目な顔でとうとうと僕に語り掛ける富岡さん。
富岡さんいわく、100万円で買える中古のロードスターはけっこう古いか走行距離が凄いことになっているか、はたまたその両方であること。
父が通勤に使っているアクセラは走行距離も年数も中古の100万円のロードスターと比べたら状態がいいこと。
父のアクセラと同等の車は100万円では購入できないことを考慮すると、アクセラをもらってときどき父親のものになるロードスターを使わせてもらうのが得策なのでは……。
さすがプロの営業マン。
僕の気持ちがぐらぐらと揺れる。
そしてとどめを刺そうとしてくるのだ。
「さすがに息子さんが一生懸命貯めた100万円を全部だせなんて言いませんよね? 松田さん!」
「もっ、もちろんだよ! そりゃ、50万円くらいでアクセラを譲ってやるって言ってるだけだからさ、ははっ!」
「聡さん、50万円で譲ってもらったら、残りの50万円は手元に残りますから学生時代のうちに車にかかる経費のかなりの部分をまかなえますよ」
グッ。
買ったらおしまいというわけじゃないんだった……。
釣った魚にはえさをあげなくてもいいのかもしれないけれども、買った車にはコストがつきもの……。
そして、最後にとっておきのトドメを富岡さんがっ。
「ロードスターは車内が狭いし、いろいろ手狭だから……ねっ? その点、アクセラだったらシートも倒れるから若気の至りでプレイに及ぶこともできますよ?」
小声で僕を誘ってくる。
なっ、なっ、なっ、なんて破廉恥なんだっ!
心の中でそう思った自分がいるけれども、もう一人の自分はいざというときのプレイを想定したらアクセラも悪くないと囁きかけてくる。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。
おそるべし、営業マン!
「今なら、コレもつけますから」
テーブルの下でそっと渡されたのは……
ら、ラブホテルの割引冊子!?
声も出せずに泡を吹いたカニのようになる僕にクスっと笑って肩をすくめて
「業者さんが置いて行ったんだけど、堂々とその辺に持って行っていいよって置いておけないからね。あははっ」
なんて笑っている。
「デートの帰りにサラッと寄り道もいいし、ガッツリフリータイムも楽しいよ☆」
……フリータイムってなんだろう?
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