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僕と滝本嬢の出会いは、ごくごくありふれたものだった。
第一志望の大学に落ちた僕は、滑り止めで合格していた大学への入学を決め、入学式前のオリエンテーションに通っていた。
第一志望には落ちたものの、冴えない高校生だった僕は大学生になるという変化に胸を高鳴らせ、これから4年間に体験するであろうステキな出会いの数々を夢想していた。
4月の初旬になると公園や大学の桜の木は、薄いピンク色の花が今を盛りに咲き誇り、僕の頭の中まで淡いピンク色のときめきでいっぱいになっていたのだ。
初めての電車通学、初めての大学生活、初めてのアルバイト。
すべてが新鮮で、毎日が充実していくのだろうと疑わなかった。
いつものように、朝、駅の自転車置き場で薄ら笑いを浮かべるお姉さんから消費者金融のティッシュをもらい特急に乗り込んだ。
名鉄特急は、名古屋・金山・神宮前・知立・新安城と停車してから、僕の最寄り駅の東岡崎にやってくる。
東岡崎の次は国府で最後が終点の豊橋駅だ。
名古屋方面からやってきた乗客は終点の豊橋まで乗っていることもあるけれども、東岡崎でごっそりと降車する。
その降車する乗客と入れ替わるように僕が乗り込むのだ。
僕が乗り込んだときには、そんなに混んでいる感じでもなく、座れる人もいれば、座れない人もいる。
どこにでもあるいつもの電車の風景。
中吊広告は、名鉄グループ主催の春のハイキングや、週刊誌の仰々しいネタが踊り、僕と同じような大学生と思われる若者がチラホラと楽しそうに会話をしていた。
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