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僕は座席に座る権利が得られずに、入り口付近に立って車窓からの景色を眺めたり、車内の様子を眺めたりしていた。
そして、電車は国府の駅に到着し、そこで少々の人々が乗り込んでまた発車した。
電車が動き出した後になってから座席を立つ人というのはなかなか珍しい。
だから僕はその人の動きにたまたま目がいったのだ。
おそらく僕と同じくらいの年齢の女の子、いや、女性が席を立ち、通路にいらっしゃったご婦人、それもかなりご高齢だと見てとれるご婦人に席を譲っていた。
……。
素直に僕は感動した。
ありふれているような人の善意というものに。
近くにいたからその会話まで聞こえてきた。
「どうぞ!」
言葉少なく席を譲った女性に
「いえいえ、悪いから」
と、一応遠慮するご婦人。でも、ご婦人の足は座席に向いている。
そのご婦人に女性は言ったのだ。
「次の駅で降りますから」
僕は心の中で盛大に突っ込んだ。
全員、次の駅で降りるよ!
だって次の駅が終点でしょ!
ちょっと天然なのかな。でも、僕があの席に座っていてご婦人に席を譲ったかと聞かれると、僕以外の人がご婦人に善意で席を譲ることを期待して何もしなかった可能性が高い。
最初から、滝本嬢は僕の中で好感度の高い人だった。
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