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「あの、忘れ物ですよ」
僕の目の端に複雑な重ね着の彼女が映り、そちらに目を向けると、確かにさっきまで見ていた薄い緑色の表紙の分厚いシラバスが差し出されていた。
……はずかし……。
「あっ、あっ、あっ、ありがとう」
しかも、どもってしまった。
顔に血液が集まるのをはっきりと感じてしまった。
そして、動揺してアタフタしていたらさらに彼女に言われてしまった。
「閉まっちゃいますよ?」
彼女の目線がドアの方へ。
ホームでプルルルルルっとドアが閉まる前の音がしている。
慌てて電車から飛び降りた僕は、閉まるドアの向こう側で彼女が朗らかに笑って手を振る姿にきっと惚れてしまったのだ。
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