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バンガローの中はくすんだ赤色のカーペットが敷かれている。コンセントがいくつかあり、携帯電話の充電にも困らない。冷蔵庫が一つ、電気ストーブが一つ、それと小卓に布団一式。扉の横には少し大きな鏡付きの洗面台。と、最低限のものしかなかった。天井からは電球と、虫除け用の薬剤がぶら下がっている。扉の反対側には木造りのベランダもあり、すぐ下には清流がほとばしっている。
何か事件を起こすには恰好の建築であった。
布団を敷いて少しの間寝転がっていると、冷蔵庫の上になにかが乗っているのに気がついた。体を起こすのも億劫に、手を伸ばしてみると、それは一冊のノートだった。
宿によっては宿泊者が旅の思い出をつづるノートというのが置いてあるのだが、このノートはそういった類のものにしては至極わかりにくいところに置かれていた。それだからこのノートに思い出を記したものも少なく、ノートのはじまりは三年ほど前になっているのだが、まだあと半分ほど空白のページが残っていた。
私は今、そのノートに書いてあったことに思いをはせている。そのノートには私の興味をそそるに十分な逸話が記されていた。それはいつの話だか分からない。ノートのはじめの方に書かれているのだが、それも伝聞形式だから、このノートの始まった三年前よりも昔の話なのだろう。ここにその逸話を記しておこうと思う。
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