種まく人

3/14
44人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「敵か味方かって…」 答えようとして、気づいた。 僕は、一体、誰だ。 「どちらです?」 男は、面白がっているような表情で、首をかしげてみせる。 「僕は…」 思い出せない。 「やはり、答えられませんか」 やれやれ、という感じで、男はため息をつく。 「答えられないんじゃない。思い出せないんだ」 「思い出せない?記憶喪失というやつですか?」 「…たぶん」 「それは、弱りましたね」 男は僕の座っている椅子の背もたれの部分に手をかける。 すると、ウィンと小さな機械音が響き、何か管のようなものをひっぱりだす。 その先端は、三本の小さな針のようなものが生えていた。 「…なんだ、それ」 「思い出せないなら、あなたの記憶を読み取るしかありませんから」 男は、そう言って、針のような先端を、僕の左側のこめかみあたりに突き刺した。 ちくりとした痛みが一瞬あったのち、目の前の空間に、映像が浮かび上がる。 星空。 濃紺の深い闇の中に浮かび上がる、ぽつぽつとした無数の星。 ぽっかりと空いた穴のような満月。 僕はその夜空をひとり見上げている。 誰かを思いながら。 誰か… 「お前の事は、ロボットとしては扱わない」 あの人の懐かしい声。 そうか、僕は、ロボットとして生まれたんだった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!