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「敵か味方かって…」
答えようとして、気づいた。
僕は、一体、誰だ。
「どちらです?」
男は、面白がっているような表情で、首をかしげてみせる。
「僕は…」
思い出せない。
「やはり、答えられませんか」
やれやれ、という感じで、男はため息をつく。
「答えられないんじゃない。思い出せないんだ」
「思い出せない?記憶喪失というやつですか?」
「…たぶん」
「それは、弱りましたね」
男は僕の座っている椅子の背もたれの部分に手をかける。
すると、ウィンと小さな機械音が響き、何か管のようなものをひっぱりだす。
その先端は、三本の小さな針のようなものが生えていた。
「…なんだ、それ」
「思い出せないなら、あなたの記憶を読み取るしかありませんから」
男は、そう言って、針のような先端を、僕の左側のこめかみあたりに突き刺した。
ちくりとした痛みが一瞬あったのち、目の前の空間に、映像が浮かび上がる。
星空。
濃紺の深い闇の中に浮かび上がる、ぽつぽつとした無数の星。
ぽっかりと空いた穴のような満月。
僕はその夜空をひとり見上げている。
誰かを思いながら。
誰か…
「お前の事は、ロボットとしては扱わない」
あの人の懐かしい声。
そうか、僕は、ロボットとして生まれたんだった。
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