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田舎町の小さな建築屋。
ワンマンな社長と、その息子の専務。
事務員は私を入れて三人。
社長はとっくに定年を過ぎてるのに、怒鳴るのが趣味なのか、事務所に来ては何かしら悪態をつく。
悪役がいる事で一致団結をしている私達事務員は、とても仲良くいい関係を築けている。
専務は基本的に現場仕事ばかりで、事務所に顔を出すことは少ないけれど、一日に数回は電話でやり取りをする。
いかにもガテン系の、作業着が似合う人だ。
そんな会社に私が務めてから、もう三年になる。
「戸田さん、結婚おめでとう」
独身だった私も、いつのまにか結婚をして「利根川」になった。
とはいえ、三年も「戸田」でやって来たわけだから、ここでは「戸田」のままだ。
「戸田さん、結婚したからって、会社辞めようとか考えてないよね?」
社長の問いかけに、私は「どうでしょう」と笑って濁した。
実は今まさに、私達事務員の間で、社長への不満が爆発していて、皆で一気に辞めてやろうという計画を立てている最中なのだ。
話の通じない社長。
専務は専務で、私達のために動こうともしてくれないし、そもそも事務所に居ないから、現状も分かっていない。
「戸田さんにはずっと居てもらいたいんだよ」
社長は機嫌を取るような甘い声でそんな事を言った。
社長の気持ちはわからなくはない。
ここの事務員のうち、一人はもう二十年近く働いているベテランで、今年いっぱいで確実に辞めることが決まっている。
そしてもう一人は、まだ入って三ヶ月。
もう何十人とこの会社には事務員が来ているのに、大体一ヶ月も持たずに辞めてしまう。
理由はもちろん、社長。
三年続いた私は、この会社来てからの二番目の長続きで、社長からしたら「レア」なのだ。
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