私達の暴露

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 田舎町の小さな建築屋。  ワンマンな社長と、その息子の専務。  事務員は私を入れて三人。  社長はとっくに定年を過ぎてるのに、怒鳴るのが趣味なのか、事務所に来ては何かしら悪態をつく。  悪役がいる事で一致団結をしている私達事務員は、とても仲良くいい関係を築けている。  専務は基本的に現場仕事ばかりで、事務所に顔を出すことは少ないけれど、一日に数回は電話でやり取りをする。  いかにもガテン系の、作業着が似合う人だ。  そんな会社に私が務めてから、もう三年になる。 「戸田さん、結婚おめでとう」  独身だった私も、いつのまにか結婚をして「利根川」になった。  とはいえ、三年も「戸田」でやって来たわけだから、ここでは「戸田」のままだ。 「戸田さん、結婚したからって、会社辞めようとか考えてないよね?」  社長の問いかけに、私は「どうでしょう」と笑って濁した。  実は今まさに、私達事務員の間で、社長への不満が爆発していて、皆で一気に辞めてやろうという計画を立てている最中なのだ。  話の通じない社長。  専務は専務で、私達のために動こうともしてくれないし、そもそも事務所に居ないから、現状も分かっていない。 「戸田さんにはずっと居てもらいたいんだよ」  社長は機嫌を取るような甘い声でそんな事を言った。  社長の気持ちはわからなくはない。  ここの事務員のうち、一人はもう二十年近く働いているベテランで、今年いっぱいで確実に辞めることが決まっている。  そしてもう一人は、まだ入って三ヶ月。  もう何十人とこの会社には事務員が来ているのに、大体一ヶ月も持たずに辞めてしまう。  理由はもちろん、社長。  三年続いた私は、この会社来てからの二番目の長続きで、社長からしたら「レア」なのだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加