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それから数日、会社で嫌なことがあった私は、投げやりになっていた。
「会社を辞めようか悩んでる」という口実で、専務と二人きりで会えないか、声を掛けてみようか。
だけど言ったって、顔を合わせるのは三日に一回程度の専務。
会社の電話でくらいしか話すこともしない。
万が一「戸田ちゃんから飲みに誘われた」なんて言い触らされでもしたら、それこそ会社に居づらくなる。
だけどやけくそになってた私は、仕事が終わると専務に電話を掛けた。
「もしもーし」
私個人の携帯からの電話に、専務は一体どう思っただろう。
「お疲れ様です。あの・・・・・・和輝(かずき)さん、今お時間大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「こんな前置き申し訳ないんですけど、和輝さんが口が硬いという事を信じて、話してもいいですか?」
「えっ? うん」
「私から電話があったことも、誰にも言わないでください。誰にもです」
私は慎重に口止めをしていった。
「おっけー。つまり、俺と戸田ちゃん二人だけの間の話ってことね?」
「そうです」
「・・・・・・で、どうしたの?」
「あの・・・・・・なんていうか、私会社辞めようかと思っててーー」
「なんで?」
随分と驚いた声を出した専務。
「ちょっとその事でお話したくて」
「どうしたの?」
「いや、色々とね、おかしいんですよ。納得出来ないというか・・・・・・。でも、話が長くなっちゃいそうで」
「それは構わないけど、どうしたの?」
「・・・・・・電話で話しても良いんですけど、あの・・・・・・」
やっぱり「会って」というのは、専務も立場上難しいだろうか。
なんせ私達の会社は、プライベートで、しかもサシで飲みに行くなんてことは一切無い会社なのだから。
「あぁ、会って話したいってこと?」
「和輝さんが可能なら・・・・・・」
「うん、大丈夫だけど。でもこの辺じゃまずいよね。戸田ちゃんちの最寄りの方まで移動しようか」
「大丈夫ですか? 面倒じゃありません?」
「駅で言ったら二駅程度でしょ。大丈夫だよ」
「すみません、急に」
「いいよ、俺現場から向かうから、近くなったら電話するよ」
「分かりました」
思っていたよりも、二人で会うという関門は簡単に超えることが出来た。
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