さよなら

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 僕はある広告代理店で営業部を担当していた。まだ新米だが気の良い先輩や上司のおかげで楽しく仕事ができている。  よく仕事が終わると部長が部下を連れて飲み屋に連れて行ってくれる。部長はとても優しくて面白くて飲み代をいつも奢ってくれるのだが、お財布の方は大丈夫なのだろうか?  そんな心配をすると部長はいつも笑って『そんな事気にせず食って飲んで明日に備えろ! 後輩は先輩の財布のことなんて気にしなくて良いんだよ!』  豪快に笑いながら僕の背中を叩くのだった。とても磊落な人だ。  僕や他の社員の人たちも奢ってくれること自体は嬉しいので毎回のように飲み屋に参加するのだがある日、一人の社員の人がある事に気づく。 「あれ部長、そういえば結婚指輪はどうしたんですか? いつも付けてたのに」 「え? あ、あぁ。付けるの忘れちゃって」  とかなんとか言って誤魔化した部長。  淀みのある声音だったので社員さんは悪いことを聞いてしまったな、と思い、僕らもあるふた文字が過って冷や汗をかいた。  だが実は別に離婚したわけではなかったのだ。  本当の理由は、 ーーーー  ある日、いつものように部長が飲み屋に連れて行ってくれた日のこと。突然、部長の奥さんが現れた。  あれ、と皆思いつつ事の流れを黙って見てみると、 「あなた! 結婚指輪を質屋に持ってったってどういうことよ!」 「えええええっっっ?」  皆は驚愕である。  部長はしどろもどろになっていた。 「あなた、指輪を売ってどうするつもりなの!」 「い、いやその、お小遣いが足りないからぁ、そのぉ」 「それなりに渡してるでしょ、お金は! あなたが飲み屋にばっか行ってるからでしょ!」 「だから、その飲み代に使っ、ちゃった」 「ええええぇぇぇぇぇぇぇっっっっ?」  指輪の代わりが飲み代っっっ?  僕らの胃袋の中ですか!  部長は僕らを可愛がってくれる良い人だ。。でも、指輪まで売って奢ってくれることないんじゃあ、 「あなたとは離婚よ、離婚!」 「ええええぇぇぇぇっっっっ!」  そして本当に離婚しちゃったよ!  僕らはとても気まずい雰囲気に包まれる。去っていく奥さんを追うこともできず部長はしばらく立ち尽くしていた。  だが切り替えたように僕らに笑顔を振りまいて、 「飲みに行くか!」 「「「行けるかっっっっっ!」」」
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