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[アマリスの乙女は歌う
銀色の髪を風になびかせて
静まれ
炎
静まれ
闇
この地を覆う
悪しきもの
全てを銀の光で包め
我が身とともに…]
この一節は誰が歌ったかもわからない。
だが、確実に受け継がれていた。
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ハーヴェイ公爵は急いでいた。
予定では日が沈まぬうちに
目の前に小さく見える街にある
自宅に着くはずだった。
しかし、出発が遅れてしまったせいで
オレンジ色の太陽は西に傾き
半刻もしないうちに
夜を迎えようとしている。
愛妻と今年5歳になる息子は
夕飯も食べずに待ちわびているだろう。
伯爵は焦りを吐き出すようにため息をついた。
「止まって! 」
刹那、女の叫ぶ声が頭の中で響くとともに
おぎゃーと元気のいい赤子の泣き声が耳に入った。
「止めろ! 」
伯爵は考える前に馬車を止め、
馬車から降りた。
すると馬車の横には
白い布に包まれた赤子がいたのだ。
辺りを見回しても母親らしき人物も
父親らしき人物もひとりもいなかった。
伯爵は泣きわめく赤子を吸い付けられるように
抱き上げた。
ミルクの匂いのする赤子は小さく頼りない。
布をそっと赤子の頭から外した。
「ーーっ!! 」
伯爵は驚愕した。
赤子はこの国の不吉の象徴とも言える赤い瞳と
幸運の象徴である銀色の花、アマリスの髪を
同時に持っていたのだった。
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