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目潰し女の正体は、一学期の終わりから産休でお休みを取っている筈のわたし達の担任だった中條先生らしかった。
わたしが耳をそば立てて聴いてしまった事に気がついた教頭先生は、動揺するわたしを落ち着かせようとした。
「君は中條先生のクラスの生徒だね。橘くんだったかな?」
「・・・」
ショックでみるみる涙が溢れ、言葉も出ないわたしは、ただ肯くしか出来ない。
「橘くんのお父さんは確か刑事さんだったね。なら判るな。君たちの担任の先生の中條先生をあんな目に遭わせた悪い犯人を捕まえる為には、今聴いた事はまだ誰にも言ってはいけないんだ。その時が来れば、校長先生かわたしからみんなにもきちんと説明するつもりだ。だから、それまではお家でも友だちにも絶対に喋ってはいけないよ、いいね。」
教頭先生は、自分たちの口の軽さは棚に上げて、わたしには厳しい顔つきで口止めしてきた。
しかし、この時の先生の語り口は、わたしには非常に効果的といえた。
刑事である父がしてくれる事件や警察に関する話は、我が家の外では一切ご法度とされていたからである。
母にも常に釘を刺されていたので、口外する事など有り得なかった。
先生たちに取り囲まれたその時のわたしには、黙って肯くよりほか選択肢は無かった。
とはいえ、わたしにとってこの教頭先生の顔、とりわけ彼の厳格な目は、卒業するまでずっと忘れられない苦手なものとなった。
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