都市伝説の正体

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中條先生は夏休みを前にしたホームルームで、生徒たちを前にして、優しい目で笑ってこう言ってた。 「先生のお腹には双子の赤ちゃんがいるのよ。」 彼女に教わったのは小学5年生の一学期間だけだったけれど、母性に溢れたマリア様の肖像画みたいだった記憶がある。その中條先生が、山の中で無惨に殺され、棄てられていた張本人だった。そして、わたしの記憶に印象的に残っている優しい目が、動物に喰われてしまっていたというのだ。 そればかりではない。 先生の言葉通りなら、つまりその残酷な犯人は、彼女自身を含めて3人もの人を殺している計算になるのだ。 件の“目潰し女”の噂など、すっ飛んでしまう位に、あまりに酷い話しだった。 目の奥が勢いよくぐるぐると回り出して、わたしは泡を吹いて痙攣しその場に倒れてしまった。 「てんかんだっ!おい割り箸持って来い!」 最後に憶えているのは、意識の外で聞こえてきた学年主任の叫び声だった。 結局、わたしは救急車で総合病院に運ばれた。職員室で生徒が引きつけを起こして緊急入院したとあっては、その直接的な理由となった中條先生の死の事実まで隠蔽するのは難しいと判断したのだろう。 翌朝には体育館で緊急集会が開かれ、校長先生の口から、中條先生の悲報が伝えられた。 こうして、中條先生の悲劇はわたし達の住む横須賀どころか、日本中にあっという間に広まっていった。 これは本当だかどうかは判らないけれど、後日母から聴かされた事に は、教頭先生にその役をやらせてはまた何人の生徒が救急車で運ばれる羽目になるか判らないと、校長からきつく叱責を受けたのだとか。 だがしかし、口外禁止の教えを守らねばならないわたしの他にも、元々このことを知っている人物は、きっと大勢いたのだろう。 集会が行われる前までには、かなりの子どもたちの間で、わたしが倒れて救急車で運ば運ばれた理由は、広まっていたらしく、校長が厳かに報告する前までには、その内容はあらかたの生徒が知る事となっていたのだという。 まさに人の口には戸が立てられないとはよく言ったもので、例えわたし一人の口を塞げたとしても、総ての人の口を塞ぐことは、いくら厳しい教頭先生にも出来なかったのだろう。 皮肉にも、入院していたわたしにとって、疑われる様な事態にならなかったのは幸いだった。
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