安田課長の憂鬱

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 仕事の出来る江藤を、ここまで翻弄する宮本の仕事の出来なさは、ある意味すごいかもしれない。ふたりがバディを組めば、とりあえず一人前の仕事が出来るのではないかと見込んだが、アテが外れてしまったらしい。  彼らの始末書を作成するのは、これで二度目――あの様子だとまたやり兼ねない。それを他の社員が起こすであろう不祥事と合わせたら、いい数になってしまうじゃないか。参ったな……  順調に出世街道をひた走っていたのに、くだらない他人の過ちで躓いてしまうなんて。 (そんな事、絶対にあってはならない。私の人生設計に、狂いを生じさせてたまるか)  額に手をやり俯きながら、ゆっくりと目を閉じた。集中していく内に、周りの騒音が遠のいていく。  ミスを量産するであろう江藤と宮本のふたりを、いっぺんに消すのは、殺りなれている私でも、いささか骨の折れる作業だ。  愛する人を誰の手にも触れさせないよう、完全犯罪で美しく埋葬する事が出来たのは、綿密に練られた計画的な犯行だったから。  まずはどんな理由を作って、私が手を下したのを上手く隠せられるだろうか――宮本の不甲斐なさに悲観して無理心中というのは、江藤の性格上有り得ない。  有り得ないネタで考慮するとしたら、ふたりを恋仲にしてみるのはどうだろう。それとも片想いの方がいいか? 想像するだけでも気持ち悪いが、この方がまだ説得力はある。  江藤に片想いした宮本が、報われない恋に悲観して無理心中。バカ社員だからこそ隙があるから、下準備するのはたわいもない事だろう。  まずは―― 「安田課長っ!」  唐突に肩を叩かれ、体を震わせてしまった。良からぬ事を考えていたから尚更だ。
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