甲斐甲斐しい幼馴染と私、その一幕。

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「もうやめてやる……」 「何をやめるの?」  思わず呟いたら、ほかほかと湯気を立てる雑炊を持ってきた幼馴染に聞きとがめられた。  我ながら結構馬鹿げた思考の果てにこぼれたものだったので、視線を逸らして知らんぷりする。 「仕事を、だったら、俺も諸手を挙げて賛成するけどねぇ」 「仕事辞められるわけないじゃん」  熱いから気を付けて、と言いながら雑炊の入った器を渡してくるのに、小さくお礼を言って受け取る。  おいしそうな匂いだ。出来合いものには感じない、心があたたかくなる感覚がする。  いただきます、と手を合わせて、匙で掬ったそれに息を吹きかける。  働かないと生きていけない、というのは、奨学金を借りる必要もなく大学まで卒業し、不動産収入で生きていける幼馴染にはわからないのかもしれない。  正直羨ましいことこの上ないけれど、奨学金に関して借りることを決めたのは最終的には自分だし、活用できる不動産なんて手元にないのだから仕方ない。世の中は不平等なのが常だ。
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