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「あ、見て。すごいよ」
ストローを軽く噛んだ那由香が肩を小突いた。
右手に持つ半透明のプラスチップカップは半分がピンク色だ。フレッシュジュースの売っている店に行くと必ずそれを頼む事を、この二年の付き合いで充分知った。理由は簡単。「苺が好きだから」。
小突かれた千紘は彼女の視線を辿り、ぽつりと空いた土地に咲き渡った白い花々と、その倍の面積は埋め尽くしている緑の一帯を見つけた。どちらからともなく足が止まり、二人で空地の前に並んで立つ。
「ホントだ。なんかすごいね、空地の主って感じ?」
「主って……他に言い方あるでしょ」
思わず返した千紘に、那由香は笑った。
つられて笑いながら千紘はストローを吸い上げた。ずず、という音がする。どうやら空になったらしい。那由香と同じ店で買ったカップに入っていたのは、グレープフルーツスムージー。もっとゆっくり味わって飲めばよかった。
空のカップを持つ左手を後ろ手に回し、改めてその光景を見つめる。四月が目前だといってもまだまだ肌寒い日々が続いているのに、まるでここだけ春が訪れたみたいだ。
「これ……何て花だっけ?」
浮かんだ疑問を呟く。
子供の頃は友達とよくこれで花冠やら何やらを作った記憶が微かにある。葉のほうはほとんどが三つ葉だが、稀に違うものがあるはずだ。〝幸運〟を意味する四つ葉のクローバーが。
「知らないの?シロツメクサだよ」
唇を尖らせた那由香は上目使いで千紘を見た。
「シロツメクサ……」
「そう。小学校の自由研究でね、タンポポとシロツメクサの違いってやつを調べたんだ。」
「セレクトが微妙に地味じゃない?」
「テーマが〝身近な植物〟だったからいいの!」
言われてみれば、その二種類は確かによく見る。
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