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「親になったんだな、俺たち」
ハッキリ言って、まだいまいち実感はできてはいない。
「そうだね、親になったんだよね」
窓にピッタリとくっつきながら咲穂がしみじみとした口調で言った。
物心ついたときから”父親”は仕事人間で愛情の欠片も感じたことなどなかった。
そんな環境で育った俺は人間として何か欠落しているような気がしていた。
だから俺がまさか父親になる日が来るなんて思ってもみなかった。
「ありがとうな、咲穂」
傍らに立つ咲穂の肩をソッと抱く。
「うん、こちらこそ。ありがとうね、ユキ」
嬉しそうに笑みを浮かべ、俺の胸に頬をすり寄せる。
胸に込み上げるものを感じた。
今が、今までで一番、温かく幸せな時間に思えた。
咲穂との間に授かった守るべき小さな新しい命。
咲穂との出会いが俺に想像もしなかった温かい未来を与えてくれた。
これからは3人でその未来に向かって歩んで行きたいと思う。
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