第一節

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 広場を抜け、地下道を進む。地上のどこに出るか、慎重に選ばなくてはならない。王国の現況を知るためには人の多い場所がいいが、騒がれてはは困る。やはり人の少ないところ……農村地区がいいだろう。  数十分ほど歩いただろうか、行く手の闇が薄らぎ、岩壁が現れた。松明を掲げると、頭上から垂れるロープも見つけることができた。ロープをぐいと引き、強度を確かめる。ぎいぎいと唸ったのち、呆気ない音と共にロープは頭に落ちてきた。 「参ったな」  つい漏れた言葉が闇の中を反響する。どうにかならにものかと岩壁をよく見てみると、作りはそれほど丁寧ではないようで、石材と石材との間には僅かな隙間があることが見つけられた。うまく指を掛ければ、登れないこともないだろう。  左手を岩壁にかける。右手……に持っていた松明を捨て、用心して火を脚で踏み消す。途端に闇が視界を覆う。実体のない手が俺の口を封じているかのように、呼吸が苦しくなる。咳払いをしてみるも、音は、反響は、急速に闇に吸い込まれる。  もし、背後から異形のモンスターが迫ってきたら。妙な想像が湧きたつ。支配領域は何者の気配も殺気も感知しない。しないが――。俺はすぐさま右手で岩壁にしがみ付いた。凹みを見つけるとそこに指を捻じ込み、体を持ち上げた。  三度繰り返せば、足は地面から離れた。そうなると、今度は背後のみならず下方も不安になる。何かが足を掴んで引き擦り込む、そんな想像が頭を支配する。  俺の心音と、俺のであるはずの呼吸とが耳に五月蠅い。出口はまだか。と、右手が何かに触れた。  出かかった声を、なんとか喉で抑え込む。右手に触れるそれは、地下道を隠すための蓋だ。怖がるべき物じゃない。  蓋は四方が打ちつけてあるらしく、ちょっとやそっとの力では持ち上がりそうになかった。恐らく蓋のどこかに、出入りするための巧妙な仕掛けがあるはずだ。だが、それを探る心的余裕はなかった。  右手に強化を施し、突き上げる。木材の割れる音が強烈に響く。思いの外強く力が籠ってしまった。近くに見張り番がいたら厄介だ。支配領域で辺りを探りながらも、勢いよく穴から飛び出し、目に入った茂みへ飛び込んだ。
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