第一節

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 息を殺し、周囲を探る。近くに人影はない。支配領域を拡大するも、やはり気配を掴むことはなかった。どうやら地下道の出入り口全てを監視してはいないようだ。それだけ人員を回す余裕がないということか。  背後には居住区内外を分ける壁が見え、銃声とモンスターの絶叫が聞こえてくる。どうやらモンスターの襲撃を受けているらしい。壁上にはまだ数人の兵士の姿しか見られないが、いずれ応援が回されてくることだろう。早いこと此処を離れたほうがよさそうだ。立ち上る白煙から市街地のある方を見定め、その方へと歩き出した。  よすがもなく向かうわけではない。行くべき場所があった。パラケルクス学院、その地下に広がる研究室、其処の室長であり、そして俺の生みの親、ユルマ=バーディ。  奴にあって、聞かなければならない。どうして俺達が生み出されたのか。どうして俺が完成体なのか。  暫く歩いていると川に差しかかった。川は流れが急だが底が浅く、幅も狭い。春を迎えただけあって、水温もさして冷たくはなかった。迂回して橋を探すという手もあったが、人目を嫌ってそのまま突っ切ることにした。  濡れた体で道なき道を行く。キヌガキカイコのタイツは撥水性がいいが、羽織ったマントは雨避け程度の実力しかない、水分を吸ってじっとりと体に纏わりついてくる。  厄介なのは羽蛭が飛んでくることだ。普通の蛭が沼地に生息するのに対し、こいつらの活動領域は広い。水に濡れた生物がいると、どこからともなく飛んできて、体に張り付く。毒こそないものの、集団でやってきて血を吸うのだから堪らない。個体によっては並々ならない量を吸うものもいるから看過できない。  支配領域で感知した羽蛭を叩き落とし、掻い潜って体に張り付いたものを払い落とす。その時、手が固いものに触れた。マントの内ポケットに入れた携帯端末だ。  思わず舌打ちが漏れる。羽蛭だけに意識を向けるも、どうしても端末の重さが気になった。
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