第一節

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 マントも半ば乾き羽蛭の姿も見えなくなったところで、いったん休憩することにした。人目を避けるため適当な木に上り、枝葉に身を隠す。干し肉を噛み千切りながら、端末を手に取る。  王国を脱してから、サラには一度も連絡を取ってない。サラからも連絡は来ていない。愛想を尽かされたのだろうか。それも当然か。サラの全霊の信頼を、俺はあっさり裏切ってしまったのだから。  今頃、どうしているのだろうか。俺のことを忘れ、あの笑顔を誰かに向けているのだろうか。その方がいい。俺といても、破滅するだけだ。そう思う。なのに、何故こうも心臓が痛い。どうしようもなく。この道を行くと、自分で決めたはずなのに。  エイプの言葉は真実だ。俺はいつ何時もサラを見ていた。夜毎囁く愛の言葉は、エイプの瞳に映る俺の瞳、その奥にいるサラに向けたものだった。 「くそっ」  ユルマに会って、俺は平静でいられるだろうか。衝動のままに殴り……殴り殺してしまわないだろうか。こうも辛い生を受けるのであれば、生み出されない方がよかった。そうかといって、今更この生から逃げ出すことはできない。背負った多くのものが俺を生に縛り付ける。  そろそろ行こう。そう思い抱えた膝を伸ばした時だ。壁の方から赤い光が見えた。あれは、信号弾だ。赤は確か、緊急か警告の意だったと思うが、応援の要請だろうか。目を凝らす。木々がざわめいている。ざわめきが壁の方からこちらへ、近付いてきている。  広げた支配領域はまだなにも感知していない。だが腰を下ろしていた枝が微動している。何か大きなもの、或いは集団が地響きを上げながら近付いている。一先ずここに隠れていよう。やり過ごせるなら、それに越したことはない。 
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