2人が本棚に入れています
本棚に追加
火が干し草から薪に移って、漸く辺りが明るくなった。エイプを見ると、彼女はまだ暗い天井を仰ぎ、胸を大きく上下させていた。
俺は炉から離れたところにある、積み重ねた葉に手を伸ばした。毒性のない大きな葉を水でよく洗い乾かしたもので、紙の代わりだ。これもまた、物質の貧しさのいい例だ。
エイプに葉を数枚手渡すと、彼女はその内の一枚で内股に流れる俺の体液を拭き取り、残りの葉で陰部に蓋をした。エイプは極自然な所作で腹を撫でた。美しく引き締まった腹を。
ホムンクルスは性器を有するが、それが機能することはないと、フォールから聞いたことがある。恐らく、彼らはそれを実証したのだろう。俺もまた反証できずにいる。
子が欲しいと切に願ったことはないが、そうも言っていられない。エイプの体は、ここ数カ月の間に目まぐるしく変化していた。彼女は、人並み以上の早さで老いているのだ。
体は引き締まっていながらもどこか丸みを帯び、肌には艶が出始めた。顔には皺が浮き始め、彼女自身それに気づいているようで、時折人差し指を目尻に沿わせたりしている。
環境の変化の所為かと思ったが、どうやら違うらしい。エイプが言うには、盗賊団の面々も成長が早かったらしい。
今はまだ、いい。エイプの肉体の変化は、色気に約されるから。しかしいずれ、老いが重しとして彼女の背中を曲げさせる時が来るだろう。その時がきたら、何もかもが手遅れだ。
だから彼女は焦っている。万が一の奇跡を信じて、俺を誘う。子ができれば、存在の連なりが生じる。ホムンクルスという存在の語り部が生まれる。その子が更に子を産み、物語を語り継ぐ。その連なりこそが、フォール、それから盗賊団の皆が望んだ、墓標の本当の在り方、そのはずと信じて。
最初のコメントを投稿しよう!